論文:ヒト肝癌細胞におけるAMPK及びmTOR経路に対するAntroquinonol® の重要な働き

(Biochemical Pharmacology 79 (2010) 162–171)
Pharmacological Institute, College of Medicine, National Taiwan University, Taipei, Taiwan Golden Biotechnology Corporation, Taipei Veterans General Hospital, Department of Radiology, Taipei, Division of Medicinal Chemistry, College of Pharmacy, The Ohio State University, Columbus, OH, USA

要旨
活性化プロテインキナーゼ(AMPK)と哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)は、それぞれ細胞のエネルギーのバランス維持と転写制御を担う二つのセリン/トレオニンキナーゼである。エビデンスから、肝細胞癌の非常に重要な治療目標とは、まさにこの二つのキナーゼであることが明らかである。 Antroquinonol® はベニクスノキタケから抽出したものであり、ベニクスノキタケは中国の伝統医学において肝臓疾患の治療に幅広く用いられてきた植物である。同植物は、HBV-DNAが陽性と陰性である二つの肝癌細胞株に対して、いずれも有効な抗癌活性を有している。HCCsに対する効力の強さは、HepG2 > HepG2.2.15 > Mahlavu > PLC/PRF/5 > SK-Hep1 > Hep3Bである。 Antroquinonol® は細胞周期の進行を完全に阻止するとともに、二重チミジンブロック及び放出法によって、その後のアポトーシスを惹起する。またデータから、サイクリンD1、サイクリンE、Cdk4及びCdk2といったG1期を制御するタンパク質を減少させることが分かった。さらなる解析によって、 Antroquinonol® はG1期を制御するタンパク質のmRNA発現を変化させることなく、転写でなく、阻害する役割のみを果たすことが判明した。 Antroquinonol® は、mTOR(Ser2448)、p70S6K(Thr421/Ser424及びThr389)並びに4E-BP1(Thr37/Thr46及びThr70)を含むタンパク質のリン酸化を阻害することによってTSC1/TSC2の遺伝子を誘導し、その細胞タンパク質の合成を阻害する。また Antroquinonol® は、AMPKの活性を亢進することもできる。化合物C、選択的AMPK酵素阻害剤は、AMPKに対する Antroquinonol® の阻害影響において非常に重要な役割を果たす。このほか、 Antroquinonol® は、ミトコンドリア膜電位やミトコンドリアの含有量を低減させて、抗炎作用を実現することができる。データから、 Antroquinonol® はAMPK及びmTOR経路において、肝臓癌にとって重要な役割を果たし、主にG1期における細胞周期の停滞とその後のアポトーシスを惹起することが明らかになった。